【ID27 八瀬尾太郎】1%の価値
平素より大変お世話になっております。国際基督教大学 3年の八瀬尾 太郎と申します。今はオランダでチャンピオンズリーグ出場を目指して頑張っているところです。(多分本当です。)
さて、これまで偉大な先輩方の引退ブログを読んできて心を動かされたと同時に、果たしてこのレベルの文章を書くことができるのかと常に恐れていた私ですが、ついにその時がやってきてしまいました。
ブログを執筆するにあたって、3年間朝練の度に眠い目をこすりながら東横線に揺られ、武蔵境までの長旅を共にしてきたマイブラザーのサトルとは綿密な作戦会議を重ねてきました。それが功を奏することを願うばかりです。そしてカイトはきっと僕たちの想像をはるかに超えるほど胸を打つ物語を生み出しているに違いありません。
本文ではこれまでの3年間で僕が僕なりに考えていたことをできる限り文字に起こして書いたつもりです。
長く拙い文章ではありますが、最後までお付き合いください。
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大学3年生になろうとしていたある日、記事でこんな言葉に出会いました。
「成功とは、99%の失敗に支えられた1%である」
これはホンダの創業者である本田宗一郎さんが残した言葉です。
多くの人から共感を得ていたこの言葉ですが、「99%は失敗で成功はたった1%だけなのだろうか」「それじゃ不十分じゃないか」という疑問を僕に抱かせ、「サッカーにおいて成功とは何なのか」を考えるきっかけを与えてくれました。
これまでの3年間、ICUFCに所属しながら数多くの挫折を経験し劣等感を抱いてきた僕ですが、チームやサッカー、そして己と向き合う中で見出した1%の価値を皆さんに共有させてください。
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まずは過去に遡って自分のサッカー人生を振り返ってみる。
【2023年1月2日】
日本一を目指して立っていた駒沢陸上競技場のピッチ。憧れの選手権の舞台。自分自身の良さを何も発揮できずに高校サッカーから退いた。言葉にできない悔しさを胸の奥底にしまって、もう本気でサッカーに向き合うことはないのかな。なんて思ってた。
高校3年間は部員が200人ほどいた中で、「レギュラーとして試合に出場したい、チームの勝利に貢献したい」という思いで頭がいっぱいで、良くも悪くも常に必死だった。なぜなら、それらが自分自身を「成功」へ導いてくれると考えていたからだ。この頃の僕にとっての「成功」というのは、「自分が望んでいる結果」であって、レギュラーとして試合に出ることも、試合に出て結果を残すことも、試合に勝つことも全て成功の一部であった。
高校3年時にはほとんどの試合に出場し、都リーグ優勝や関東リーグ昇格、そして冬の全国高校サッカー選手権大会まで経験した。当時は素晴らしいチームメイトたちと環境に恵まれていたがために、自分自身に対して自然と高い理想を押し付けていたような気もする。
そしていつしか「試合に勝つこと以外は失敗。」「少しの成功だけじゃ足りない。」そんな考えを持つようになっていた。
つまり、高校生の時の自分は成功にしがみついて、ただひたすら結果を残すことだけに貪欲になっていたのだ。
結局その頃の自分は「1%の成功」が「99%の失敗」に支えられているなんて思いもしなかった。
【2023年1月28日】
人生のほとんどの時間をサッカーに捧げてきた僕は、サッカーがない日々を想像することができるはずもなく、大学の入学式を待たずしてICUFCの練習に参加していた。
ここだけの話だが、この時一緒に練習に参加した同期のカズマがついこの間までバドミントン部だった事実を知った瞬間、胸の奥に言葉にならない不安が静かに広がった。当時はただ彼のエネルギッシュな姿とやる気に満ち溢れた姿勢を信じるしかなかった。
あまり表に出すタイプではないが、僕は根っからの負けず嫌いだ。あらゆる分野で自分が常に1番でありたい。そのために常に結果を出したい。結果を出すためなら努力は惜しんではならない。そのようなマインドでこれまで過ごしてきた。
しかも、良くも悪くも自分と他者を比べてしまう性格であるがゆえに、他者の成功を羨み、そんな奴らに負けてたまるかと自身の成功のために必死になってしまう。つまり自分にとって「失敗」という結果は到底受け付けられるものではなかった。
高校と大学で環境に変化はあったものの、置かれた場所で結果を残そうと密かに意気込んでいた。
迎えた1年目。
ICUFCは都2部に所属していたため、チームとしては都1部に昇格することを目標にリーグ戦に臨んだ。結果は12チーム中9位。
サッカーが面白くない。勝てない。自分のベストを発揮できない。色々な葛藤と共に、ただ練習をこなすだけの日々が続いていた。もうサッカーはいいかな。社会人チームに行こう。これまでに経験したことのないほどの負けの連続から、ICUFCでサッカーをしている意味を見失っていた。目に見えるような活躍をすることができないままあっという間に1年目を終えた。悔しかった。
2年目。
気持ちを新たに臨んだリーグ戦。いきなり0-5、1-9のスタート。正直もうどうすれば良いのか分からなかった。初めてサッカーでドン底を経験したような気がして、サッカーが楽しくなくなった。そこからは自分が良いプレーをすればよし。チームが勝たなくても自分が結果を残せばよし。結果という成功にしがみついて、自己中心的すぎる浅はかな考えとともにプレーしている自分がいた。今振り返ればとてもとても情けない男だ。最終的にチームは降格してしまった。
先輩たちがここまで築き上げてくださったものを崩してしまった。チームに貢献できない自分が情けない。ただひたすらに自分自身を責めた。いくら失敗をしたって、成功だと思える瞬間なんてこない。成功(結果)にしがみついていた僕は、負け続ける自分に落胆してしまった。
転機が訪れたのは2年生の時の最後のカップ戦。格上の上智に対して、守って守って手にしたPK戦の末の勝利。負けはしたものの善戦した学習院戦。勝つことだけが成功だと信じていた自分が、負けた試合で「失敗」という認識をしなかったのは初めての経験だった。
これまでこんなに負け続けていたチームなのに、たったの2試合で僕の感情に変化があったのはなぜだろう。奇しくも、ちょうどその頃に出会ったのが「成功とは、99%の失敗に支えられた1%である」という言葉だった。
僕はその時に気づいた。それまでは結果を出すことに貪欲になりすぎて、勝ち続けなければならないという使命感に駆られていたと。本田さんの言う「1%の成功」というのは、サッカーにおいて「勝ち続けること」「結果を出し続けること」ではないんじゃないかと考えるようになった。
実際、失敗だらけのように感じていた1. 2年生の頃のシーズンにも「成功」と呼べる瞬間はいくつかあった。例えば、1年生の頃の工学院戦。当時8連勝くらいしていた相手に対して勝ち取った1-0での勝利。半端じゃないチームの熱量を感じた。2年生の頃、試合を終始支配して完勝した外語大戦。約30本の美しいパスワークでゴールに迫ったシーンは正直かなり気持ちが良かった。他にもいくつかあるが、その時のメンバー全員の表情、雰囲気、そして僕たちがしていたサッカーは「成功」と呼べるものだった。シーズン全体を振り返ると失敗だらけのように感じていたが、それらの失敗に支えられて小さな成功も成し遂げていたのだ。
サッカーにおいても、人生においても、成功ばかりする人なんていないと思う。
むしろ失敗を乗り越えた先のほんのちょっとした成功が、苦しかった時期を全て忘れさせてくれるくらい大きな力を持っているんじゃないか。「1%の成功」と言われると、たったそれだけかよと思えるかもしれないが、その”1%”が持つ力は”99%”の失敗よりもはるかに大きいものだと身をもって感じた。
そして、チームスポーツであるサッカーにおいて、その1%の成功は自分1人の力で成し遂げられるものではない。
共に切磋琢磨してきたチームメイトたち。
嫌な顔ひとつせずサポートをしてくれるマネージャーのみんな。
日頃からサポートをしていただいているOB、スポンサー、保護者の方々。
チームのことを第一に考えてくださる監督、コーチ。
色々な人の支えがあってICUFCでプレーすることができていた。
思い返せば、自分が悩んでいる時、うまくいかない時、どんな時も仲間は側にいてくれた。結果に貪欲になりすぎて常に完璧を追い求めていた日々。それを引きずっていた大学1.2年生の頃の自分。
チームが勝てないと、自分の気持ちはダダ落ち。自己中心的すぎた自分はチームのみんなにわがままを言い、無理な要求をし、言い合いになることもあった。しかし、みんなはそんな僕を見捨てたり、仲間外れにしたりせずに、真正面から向き合ってくれた。どれだけ辛かろうが、そう簡単にICUFCを辞められないのは、間違いなくICUFCで出会った仲間がいたおかげである。本当にありがとう。
自分は今留学中でチームを一度離れているが、振り返ってみるとやはり1%の成功の記憶の方がより鮮明で、99%の失敗はただぼんやりと感じるくらいだ。失敗だらけの3年間だったかもしれないが、1%の成功が本当にたまらない瞬間であるが故に、このチームのためにこれまで戦ってこれたのだと思う。
さて、3年生になって3部でのシーズンがスタートし、1年での2部復帰を目指して迎えたリーグ戦。結果だけ見たらそう上手くはいかなかった。
しかし、1.2年生の頃に感じていた焦りや苦しみはこの時にはなかった。むしろ、このチームでプレーできる幸せを毎試合噛み締めながらプレーしていた。このチームのメンバーの1人として、みんなと共に戦えることが誇らしく、幸せだった。自分がICUFCという素晴らしい組織で、素晴らしい仲間たちに囲まれて、素晴らしい環境に身を置いていることに気づけたからだ。
迎えた前期の日本文化大学戦。人生ベストゴール(仮)が生まれた。後半アディショナルタイム、1-1の状況でこのまま引き分けで終わるとみんな思っていただろう。過去の自分だったら同じように思っていたかもしれない。ただこの時は、「絶対に、何がなんでも勝ちたい。チームを勝たせたい。」そう思っていた。スーパーサブ中谷カントが今までに見せたことのない巧みなドリブルで相手をいなしたあと僕にボールが渡った。多分周りに4.5人相手がいたが、ゴールまでの道筋がパッと目の前に現れて時が止まった。
ゴールの瞬間、一瞬自分の中で静寂が訪れて、ふと我にかえると、みんなの笑顔が目に入った。ビデオを見返すとピッチでもベンチでも観客席でも、みんなが嬉しそうだった。初めて結果でチームに貢献できた気がして嬉しくて仕方なかった。試合後、少しスカしちゃったのが悔やまれるが、心の中では大はしゃぎだった。そして何より幸せだった。
99%の失敗がここで報われたかもしれない。99%分も失敗したからこそ、この1%の瞬間が持つ意味は大きいのかもしれない。
僕が当たり前のように過ごした3年間、一見苦しかったことの方が多く感じられるかもしれないけど、そんな苦しみを払拭させてくれる幸せな瞬間をみんなと共有できて最高だった。
1.2年生の頃、あれほど苦しんだことも、今となっては良い思い出だ。あの時にあれだけ自分自身、サッカー、そして仲間たちと向き合う事がなければ、今このような考え方を持つこともできていなかったのではないかと思う。上手くいかないこと、苦しいことが続くと、日々の当たり前に幸せを見出すことはなかなか難しいことかもしれないが、良いこと、悪いこと含め、自分は恵まれているんだなと改めて感じた。サッカーのみならず、自分の人生で起きる1つ1つの当たり前が、当たり前でありながら幸せなことなんじゃないかと最近は思うようになってきた。
結論、サッカーにおいて「成功」とは「勝つこと」ではなく、何回も挑戦し、苦しみ、葛藤し、99%を占めるように思えるたくさんの失敗を経験したものだけが感じられる、1%(体感120%)の幸せな瞬間であると思う。皆さんも苦しいことが続いた時は1%の成功のためになんとか踏ん張ってみてください。必ず幸せな瞬間は訪れます。
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最後に、これまでICUFCで出会った全ての皆さんにこの場をお借りして感謝を伝えたいと思います。ICUFCは間違いなく自分を成長させてくれました。
たくさんのことを教えていただき、毎日その姿がお手本でしかなかった先輩たち。
社会人になってからもご飯のお誘い待ってます。
家族のような存在で、自分にとって必要不可欠な同期のみんな。
定期的に旅は開催しよう。国内は行き尽くしたから次は世界進出で。
生意気な奴が多かったけど、頼りになる後輩たち。
帰国したら後少しよろしくね。
気が利きすぎて、もはや恐れ多いマネージャー陣。
それぞれ色があって、様々なサッカーを経験させてくれたコーチたち。
僕たちの活動を後押ししてくださるOB、スポンサー、保護者の皆様。
そして家族にはいつも1番近くでサポートをしてもらいました。ありがとう。
徐々に恩返しできるようにこれからも頑張ります。
僕がこれほどかけがえのない、濃い熱い3年間を過ごせたのも皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。なかなか期待に応えることができなかったのが心残りですが、皆さんと共有できた時間は間違いなく僕の人生の財産です。
ありがたいことに留学後はまだICUFCでプレーすることのできる時間が残っています。またフィールドで再会できる日を楽しみにしています!

まとまりのない文章になってしまいましたが、ご一読いただきありがとうございました。これからもICUFCへの熱いご声援よろしくお願いいたします!
国際基督教大学 3年 八瀬尾 太郎
